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zoom RSS 「俳句入門」秋元不死男著、角川選書

<<   作成日時 : 2017/05/14 05:32   >>

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 俳句を始めて間もない初心者が読んでも真意が汲み取れないほど高度な入門書になっている。著者の秋元不死男は、明治34年、横浜元町に生まれ、戦前は働きながら俳句を学んでいたが、戦時中の思想弾圧事件「京大俳句事件」に絡んで逮捕され、昭和16年2月から昭和18年2月まで2年間を牢獄の中で過ごした。戦時中の思想犯がどれほど過酷な扱いを受けたかは想像に余りある。そのため戦後は職を失って、俳句一筋に生きた。
「俳句入門」は、著者が53歳の時に初版が出ている。初心者向けに書かれたのだろうが、内容は俳句芸術論の核心に迫っている。それは冒頭の「易きにつかぬ」という項に「わたしは易きについてはいけない、とじぶん自身にいいきかせるのである」と書いているように、安易な俳句らしきものを否定し、俳句芸術を深めるべきだと主張している。感傷についても、「もともと、やさし味とか人情味には感傷がある。この感傷が、じつは詩には大切な要素なので、いい芸術にはもちろん、いい俳句には感傷がふかく、切実に根をおろしている」と書きながら、つまらない俳句を批判している。「しかしそれは、(感傷が)きわめて浅く俗にでている。だからつまらないのだ。浅く、俗にでているわけは、感傷が人情の浅い底からでていて、その人情が理屈でいわれているからだ」と述べている。俳句らしきものは誰でも容易に作れるが、本当の俳句ではないと言っている。
 写生の重要性を説き、説明を戒めている。「詩の感動は美の感動に似ている。美の感動は素材である。端的であり、なまなましく、そして直接的である」

 第3章「俳句は短い」の中で、「単一化」の重要性が述べられている。「かように複雑なことを、複雑にうたうのでなく、また簡単なものを簡単にうたうというのでなく、複雑なものを単一化してゆく、こういう単一への復帰こそが、いい俳句、うまい俳句のできるおそらくただひとつの道だといっていいのである」
 俳句は物語れない。沈黙の芸術だという。単一化と沈黙とが俳句の宿命だ。「俳句は『人生いかに生くべきか』という課題に俳句という場で答えなくてはならない。(略)散文文学的な意味における構図的顧慮は、さっぱりと棄てて、ひたすら、じぶんの心的世界に沈潜して、複雑な人生を生きるよろこびや、かなしみ、怒りや、抵抗、思索や諷刺などを、森羅万象に托して作品にすべきである」著者は、「詩(俳句)に徹する」ことが重要だと述べている。
 俳句は境涯の詩であるとも述べている。「一句一句の積みかさなりは、やがてそのひとが作家としていかに人生を生きたかという人間内容の提示となる。わたしはそう思っている。もちろんこのことはひとり俳句のばあいだけではないけれど、俳句が境涯の詩だということをつよく知ってもらいたいので、このことをいっておくのである。だから句会があるからちょっと行ってつくってみよう、投句の締切日だからつくってみよう、といったようなことで俳句をつくるようでは、境涯の詩としての俳句はつくれまい」著者は、安易な作句姿勢を厳しく戒めている。「絶えず俳句をつくること、そしてそれは、じぶんの人生行路の文学的足跡だという、その俳句と自分にたいする愛着と思慕なくしては、作家の記念碑としての作品は生まれないだろう。どうせ俳句をやるなら、人生を生きたという、すくなくともそういう足跡を作品にのこすつもりで努力してもらいたくおもうのだ」

 俳句は病気とも深く関わって来た。結核患者からも優れた若き俳人たちが生まれた。
      咳暑し茅舎小便又漏らす   川端茅舎
      春疾風屍は敢えて出でゆくも 石田波郷
 俳句は人生と密接に関係している。また、俳句は芸術だと著者は強く主張する。
「芸術がみずからの世界完成を至上とする以上、芸術は永遠に芸術至上でなくてはならないのだ。究極においてわたしたちは、人間生活の理想をのぞむ。それを普遍的な人類のねがいとして果たすべく生活している。ただ俳句の場でこのねがいを果たすときは、詩の仕事を至上とし、詩を完成することによって果たしているのである。(略)詩人の仕事場は、極端にいえば詩を書く紙の上にだけあるのだ。彼はここで、はじめて理想を実現するのである。われわれが俳句をつくるかぎり、われ詩人なりという自覚はそういうところに根をおろしていなくてはならない」

 俳句が成立するには、「内容」「形式」のほかに「気分」が欠かせないという。著者は「蝶」を例にしていくつかの俳句を解釈している。
      方丈の大庇より春の蝶     高野素十
      てふてふやいま神様の毬ついて 小杉余子
      初蝶やわが三十の袖袂     石田波郷
      釣鐘にとまりて眠る胡蝶かな  谷口蕪村
      山国の蝶を荒しと思はずや   高浜虚子
 同じ蝶を扱っても、作者の「気分」によって独自の詩的世界を産み出している。

 第6章では俳句の表現について記している。「百の感動には百の具体的な表現がある。感動の数や性質に応じて自然に変化せざるを得ないのが表現である。表現はかたちに成るものでありながら、固定したものでないという意味でかたちではない。だから表現を、あるかたちへのまとめ方、という風に考えないで、感動や認識に生命を与える力、いってみれば、じぶんで選んでじぶんのことばで、ぴったりいう、これが表現の生命である」「表現が粗雑であっては、せっかくの着想・把握は死んでしまう。表現は巧緻をきわめればきわめるほどよい。表現にはうますぎるということはない。表現に気どりがあったり無理があったり、技巧を弄んでいるといった小手先の芸は、いやなものであるけれども、真面目に真剣に表現したものは、多少の癖や瑕があっても好感がもてる」「表現はこまかく研究すれば、必ずその作者ならではできないという表現をしている。つまり表現はいつもその作者の『いいたい内容』と深く関係するからである」
 俳句には独特の表現がある。それは「短い表現のよさ」であるという。単一表現について、マチスの言葉を引用している。「絵画ではすべての部分が眼に見え、主要なものであろうと、第二義的なものであろうと、それぞれに与えられた役割を果たすのである。絵画における有用でないものはことごとく有害である。芸術作品はその全体として調和がなければならない、というのは余分な細部描写は観る者の心の中で本質的な要素の邪魔をするからである」
    枯蓮のうごくとききてみな動く    西東三鬼
 著者はこの句についての思い出を記している。著者と西東三鬼は戦後間もなく奈良の薬師寺に詣でた。境内の池を見て俳句を作ろうとしたが著者はできず、西東三鬼は句にした。
「この句は、そういういろいろの材料を切って捨て、ただしずまりかえっている枯蓮に風がきて動く、ということだけをとらえ、『枯蓮のうごくとききてみな動く』といい切ったのである。すなわち静中動ありというその風景の性格を単一化したのである」
 著者は同じ場所で違った句を創った。
    蛇消えて唐招提寺裏秋暗し     秋元不死男
 西東三鬼の句には場所が示されず、著者の句には場所が示されている。何を示して何をかくすか。それを論じている。「示すこと」「隠すこと」は整理されなければならない。

 技巧についても重要なのは単一化だと主張する。「精神がつねに技巧をつくりあげるということ、つまり、俳句の技巧は徐々に単一精神によって形づけられること、これが根本的に忘れられてはならないことである。だから俳句の技巧を習得するのは、単一精神に徹する時間に等しいといえるので、やはりながい勤勉と研究がなくては達せられない」

 最後に推敲を取り上げている。自分で自分の句を直す場合の心掛けを示している。
1、 一句の意味が別な意味にとられる心配はないか。
2、 中心がはっきり掴めているか。
3、 用語叙法に誤りはないか。
4、 もっと美しい正確なことばや調べはないか。
5、 他に類句はないか。
      




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