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zoom RSS 第160回芥川賞「ニムロッド」 上田岳弘

<<   作成日時 : 2019/03/10 16:42   >>

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とても哀しい物語だが、登場人物たちも「駄目な飛行機」たちも哀しい。その中で、個人的に最も哀しかったのが、主人公・中本哲史の恋人、田久保紀子だ。38歳の主人公と同い年の紀子は、結婚していた頃に哀しい体験をした。30歳で結婚して35歳で妊娠したものの、出生前診断で赤ちゃんに染色体異常が認められたのだ。夫は、出産の判断を紀子に丸投げし、紀子は結局堕胎した。外資系金融会社の有能な社員でもある紀子は、離婚して仕事に没頭したが、堕胎の傷は残り続けて、紀子を苦しめる。海外の出張には「お守り」として睡眠薬が欠かせなくなり、飛行機の中ではかつての苦い体験が蘇る。作者は、この女性をこう書いている。「克服可能なトラウマを抱えた、けれど本質的な強度を備えた女性。田久保紀子。不器用で貧乏であるために、世の中に降り回されて日常生活の些細な達成に喜びを見出すしかない人々とは一線を引いている。でも無神経ではない」紀子と主人公が逢う場所は、高級ホテルばかりだ。「グランドハイアット」「ホテル椿山荘」「ヒルトン成田」「リージェンシー」…紀子は、月に何度かはこういったホテルに一人で泊まることにしている。紀子が住んでいる金融の世界では、破格の金額が動く。「高いって言っても、世界第四位の製薬会社ほどじゃないでしょ?」主人公の同僚で友人のニムロッド・荷室仁との会話に出てくる紀子の台詞には、彼女が住んでいる世界の感覚が出ている。だが、彼女が惹かれるのは、ニムロッドの書く小説と、ニムロッドが主人公にメールで送ってくる「駄目な飛行機たち」だ。その中でも、紀子が興味を持つのは、太平洋戦争終盤で開発された航空特攻兵器「桜花」。一人の若きパイロットが練習機に乗り込んで遺書を残して「東方洋上に去った」。巨額のマネーを動かし、多額の利益を生んでいる紀子は「正直言って何のために稼いでいるのか、全然わかんない」と思っている。「人生、じゃないみたい」と思う紀子は「ねえ、東方洋上ってさ、なんか響きがいい。そう思わない?なんかこう、すごくいいところに行くみたいに聞こえる。この仕事が終ったら、私も東方洋上に去ろうかな」と言う。主人公はビットコインを掘り続ける。ビットコインを発明したといわれる人物と同じ名前だ。小説新人賞に落選を続けるニムロッドの小説には、巨大な塔を作り、駄目な飛行機たちを飾る男と、彼に駄目な飛行機を売りつける最後の商人が描かれる。主人公は、紀子を愛していて、結婚までを考えていたらしいが、紀子は「東方洋上」へ消え、ニムロッドとも連絡が取れなくなる。二人はどこへ行ったのだろうか。

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