ウトヤ島、7月22日

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「ヒトラーに屈しなかった国王」で世界的名声を得たエリック・ポッペ監督が、ワンシーンワンカットで撮った歴史的惨劇が「ウトヤ島、7月22日」だ。この作品が上映されていた19年3月15日、ニュージーランドでは豪州出身の極右青年、ブレントン・タラント容疑者(28歳)が、クライストチャーチにある2ヶ所のモスクを襲撃してイスラム主義者たち50人を射殺した。この悲劇から8年前の2011年7月22日、ノルウエーの首都・オスロで衝撃的なテロが起きた。作品の冒頭でテロップによって示されるように、このテロは二段階になっている。午後3時17分、オスロの政府庁舎が車爆弾によって爆破され、8人が犠牲になった。容疑者のアンネシュ・ブレイビク(当時32歳)は、キリスト教原理主義を信奉する極右思想を持ち、移民政策に反対だった。ブレイビクは、このテロ計画のために大量の肥料を購入し、硝安油爆薬(アンホ爆薬)950キロを作ったという。製造方法はネオナチサイトから得たらしい。最初の場面で主演のカイヤ(アンドレア・バーンツエン)が携帯で母親と話しているが、すでにテレビではオスロ政府庁舎爆破事件が大きく報じられていて、心配した母親がカイヤに電話してきたのだ。カイヤには妹がいて、二人ともウトヤ島で行なわれていたノルウエー労働党青年部のサマーキャンプに参加していたという設定だ。登場人物たちは創作されているが、監督の綿密な取材とインタビューの中から作られている。72分間ワンカットなので、何度もリハーサルが繰り返されたはずだ。登場人物たちも多く、逃げ惑う青年たちの表情には切実なリアリティーが溢れている。ブレイビク容疑者はタクシーで移動し、用意していたボートでウトヤ島へ上陸したが、制服警官の姿だった。午後5時過ぎ、ブレイビクはオスロで起きた爆破テロの捜索だと偽り、青年たちを整列させて乱射を始めた。一人に2発ずつ撃ち込んだ。逃げる相手には背後から撃った。ブレイビクに容赦はなかった。地元警察の初動は遅れた。制服警官の乱射という通報を信じなかったのかもしれない。上陸したのはオスロ警察(日本では警視庁に相当する)が先だった。ブレイビク容疑者は、素直に投降し、逮捕された。事前に用意していた声明文をネットで公表し、裁判では自ら主張を述べると言い張った。ニュージーランドテロのタラント容疑者も、弁護士を断って自ら主張を述べると言っている。彼らは、自分を正しいと確信している。そのために、多数の犠牲者が出ることは「やむをえない」と判断しているのだ。そこには良識との接点がない。彼らは自らが作り出した確固たる目的のために、努力を重ね、実行したのだ。作品の終盤、主人公たちの隠れていた崖の上に犯人が姿を現し、真上から銃弾を撃ち放つ。無防備の青年たちは、次々と犠牲になる。妹を探していたカイヤが最後に撃たれてしまうのは、とても哀しい演出だ。監督は、救出にやってきたボートの乗客の中に妹の姿を映して、最後の救いにしている。この作品は、地球上からテロが消えないことを描いている。主人公のカイヤは「国会議員になりたい」と考える議論好きな女性だった。その有為な将来は、狂気の銃弾によって潰されてしまう。

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