警視庁機動捜査隊216~エピソード10・引鉄(ひきがね)

 沢口靖子さんが警視庁機動捜査隊目黒分駐所の主任・沢村舞子警部補を演じるTBS系ドラマ「警視庁機動捜査隊216」が10作目となり、今回はドラマ特別企画として3時間ドラマになった。UNION制作のこのシリーズのオリジナル脚本を担当してきたのは、安井国穂氏だ。2010年に始まったこのシリーズを通して、ドラマのテーマには一貫して社会問題が捉えられている。また、このシリーズは、設定が極めて限定されている。冒頭の沢口さんのナレーションにもあるように、午前9時から始まって翌朝の9時までに事件が発生し、解決する。隊員は常に拳銃を携帯している。機動捜査隊の仕事は初動捜査だけで、犯人を追う捜査には関わらないため、事件の真相に迫ることはできない。だが、ドラマの中ではヒロイン・沢村舞子警部補の勘と推理が光って、真犯人に辿り着くように設計されている。脚本家は、常日頃から現代日本に起きる様々な犯罪に目を凝らし、記事を収集して検討し、選んだ素材を脚本に取り込んでいる。どのような素材を使うかはプロット段階で決まるが、登場人物たちに血肉を与えるのは脚本にしてからだ。サスペンスと笑いを忘れずにクライマックスまで視聴者を運びきらなくてはならない。たとえ3時間の長丁場でも視聴者の期待を裏切れば、シリーズは終ってしまう。
 今回の見せ場は、捜査一課時代の拳銃発砲事件の傷を抱えている舞子が、再び拳銃を撃つ場面だろう。そこへ辿り着くまでに、いくつかのエピソードを用意している。山梨県で警察官が襲われて拳銃が盗まれる。残りは4発。その拳銃が都内で使われて、オリエンタルファンドの秘書が撃たれる。借金を抱えたトラック運転手と老人介護施設で働く妻。浮浪者のダンボールハウス前で撲殺されたタクシー運転手。逃げた浮浪者。拳銃を密やかに見つめている引きこもりの青年。廃品回収のトラックに乗っている老年夫婦。これらの人々が動き始めて、互いに絡み合うように設計されている。捜査本部にも工夫が見られる。人望が厚い捜査一課の坂出管理官と、冷徹に組織優先を考える警察庁刑事室長。シリーズのお約束もいくつかある。機動捜査隊員と捜査一課の対立。夜勤明けの舞子に朝飯を誘う新聞記者の土居。舞子の過去の発砲事件の映像はこれまで何度も使われたが、今回も回想場面として使われている。エピソードにも現代社会の問題がいくつか使われている。学生時代のいじめでひきこもってしまった青年の復讐。スマホ運転の自転車事故。ハゲタカファンドによる強引な買収で会社を奪われた元社長の復讐。舞子の勤務時間内に、タクシー運転手殺人事件の解決、スマホ自転車ひき逃げ事件の解決、ひきこもり青年の復讐事件の解決、幼女拉致事件の解決、さらにはハゲタカファンド社長拉致事件の解決、と驚異的なスーパーウーマンぶりを発揮する。そして、終盤、舞子は二度目の発砲を決断する。だが、作者は意外な結末も用意している。事件捜査中、舞子を罵倒していた警察庁刑事室長が掌を返すように「沢村警部補に総監賞を申請します」と言う。犯人確保のためにやむなく発砲した警察官を守ることが、警察という組織を守ることになると言うのだ。発砲事件に対する世間の批判をかわす為にも、舞子の発砲を正当化する必要があると言う。沢口靖子さんのクールビューティーが魅力のこのシリーズ。次回作にも期待したい。
 

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