名探偵コナン・紺青の拳

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劇場版名探偵コナンは、映像的にスケールアップを求められてきた。前作「ゼロの執行人」は、過去最高の興行収入91億円を叩き出したが、それを支えているのが映像技術の進歩と脚本だ。前作のファーストシーンは、轟音を立てて高速回転する圧力釜だったが、それはIoTテロを暗示する象徴的な映像だった。前作の脚本家、櫻井武晴氏の現代的で斬新なアイデアと卓抜な構想力は、アニメファンだけではなく、ドラマファンの期待にも十分に応えていたと思う。リアルな警察組織から離反した犯人像も練り込まれていた。今回の脚本家は大倉崇裕氏だが、まず求められたのはシンガポールを舞台にした物語だということだろう。そこに、人気キャラ“月下の奇術師”怪盗キッドと“就撃の貴公子”京極真を登場させ、鈴木財閥のお嬢様を絡ませている。犯罪者側には、レオン・ローというシンガポールの名探偵を置き、さらには“海底に葬られた秘宝・ブルーサファイヤ・紺青の拳”を加えている。怪盗キッドを活躍させるための秘宝だが、厳重に警護された秘宝の争奪戦にはなっていない。実は、レオン・ローにはある企みがあって、海賊という名のテロリストたちと結託して、シンガポールを破壊しようとしている。冒頭でその計画を知った女性が刺殺されるが、それをコナンが解決するわけでもない。さらには、シンガポールで催される空手トーナメントに京極真が出場するが、決勝戦が描かれるわけでもない。クライマックスで巨大タンカーがマリーナベイ・サンズに突っ込んでくるが、海賊たちは様々な武器でシンガポールを破壊しようとする。それに巻き込まれながら、コナンとキッド、京極真がそれぞれに犯罪と戦うという物語になっている。テーマが分散し、焦点が絞りきれなかったのは、脚本の練り方が不足しているからだろう。ラストには、意外な黒幕や、本当の狙いが鈴木財閥のお嬢様誘拐による身代金にあったのだと説明されるが、「あ、そうだったのか!」という驚きより、「ああ、そうだったのですね」という冷めた最後になってしまった。鈴木財閥のご令嬢を誘拐するのなら、日本でもできただろう。シンガポールをあれだけ破壊すれば「大金が動く」からと説明されているが、具体的にはどういう意味でしょうか?過去のシリーズは有力な脚本家がハリウッド映画顔負けのスケールの大きな物語を生み出してきた。演出家はそれにふさわしい最先端の映像を創作してきた。そこに、「劇場版名探偵コナン」が名作であり続けてきた最大の根拠がある。映画は脚本が命である。中途半端なアイデアの寄せ集めでは、作品的な成功は望めない。

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