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皇国史観(片山杜秀著、文春新書)

近現代史に興味のある読者にとって、満州事変から終戦までの昭和天皇のあり様は、興味深い存在だ。昭和11年に起きた2・26事件では、若き昭和天皇の確固とした判断がなければ、反乱軍の鎮圧は望めない状況だった。戦況が悪くなるにつれ、最後の一勝を望んだために終戦の決断が遅れ、結果的に原爆投下を許してしまったと言う指摘もある。だが、戦時中、国民…
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推し、燃ゆ(宇佐美りん著、第164回芥川賞受賞作)

高校生のあかりは、アイドルグループ「まざま座」のメンバー、上野真幸を「推す」一人だ。「ラジオ、テレビ、あらゆる推しの発言を聞き取り書きつけたものは、20冊を超えるファイルに綴じられて部屋に堆積している。CDやDVDや写真集は保存用と観賞用と貸出用に常に三つ買う。放送された番組はダビングして何度も観返す。溜まった言葉や行動は、すべて推…
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東條英機・「独裁者を演じた男」(一ノ瀬俊也著、文春新書)

1941年12月の真珠湾攻撃からサイパン島陥落までの2年9ヶ月間、首相を務めた東條英機は、戦後、A級戦犯容疑者としてGHQに逮捕された。本書には、1945年9月に文学者の杉浦明平が記した日記が載っている。「東條英機が逮捕に先立って自決した、とラジオは伝えている。寺内も重態という。戦争犯罪人数千人の名簿がすでに作成されているそうだ。東…
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エリザベス女王、史上最高・最強のイギリス君主(君塚直隆著、中公新書)

君塚直隆著「エリザベス女王」は、リリベットの愛称で幼い頃から人々に愛されてきたエリザベス・アレキサンドラ・メアリの94年間の人生を描いたものだ。現在のエリザベス2世は、1926年に生まれ、1952年に父・ジョージ6世の後を継いでウインザー朝4代目の君主として即位した。当時、25歳だった女王は、2021年には95歳になられる。在位70…
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石つぶて(清武英利著、講談社文庫)

2001年、警視庁は機密費詐欺事件で外務省官僚を逮捕した。清武英利著「石つぶて」は、この事件の捜査に当たった警視庁捜査二課の刑事たちを描いたものだ。清武作品には「しんがり」「石つぶて」「トッカイ」と、斬新なタイトルが付けられている。「石つぶて」は、ノンキャリアの警察官たちが日々続けている地を這うように地道な捜査を示している。この作品…
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しんがり(清武英利著、講談社文庫)

20年NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の中でも“しんがり”が出ていた。朝倉攻めで、浅井の寝返りによって挟み撃ちにされた織田信長軍を逃がすため、明智光秀と秀吉が最後尾で戦った場面だ。ドラマの中では、秀吉が明智に「名を上げるためにしんがりをやらせてほしい」と懇願していたが、山一證券破綻後に破綻の真相解明のために残った「しんがり」たちは、名…
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内閣調査室秘録・戦後思想を動かした男(志垣民郎・岸俊光、文春新書)

現在の内閣情報調査室は、68年前の吉田茂内閣の時に創設された。この著作は、発足当時に室長を務めた村井順の部下だった4人の部下の1人、志垣民郎氏の残した日記が基になっている。戦争体験のない日本人ばかりになってしまった令和の現在、志垣氏が終戦直後に感じた大きな違和感を理解することは難しくなっている。志垣氏は戦時中、日本が対米戦に踏み…
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マトリ・厚労省麻薬取締官(瀬戸晴海著・新潮新書)

マトリは、厚生労働省麻薬取締官の略称だ。「マトリには、約300名の麻薬取締官が存在している。麻薬取締官は薬物犯罪捜査と医療麻薬等のコントロールに特化した専門家で、半数以上を薬剤師が占めている。おそらく世界最小の捜査機関である」と、著者は記している。本書に載っている年代別麻薬事件を見ると、「2017年―アフガニスタンのあへん生産量約900…
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トッカイ(清武英利著、講談社)

元読売巨人軍球団代表だった清武英利氏は、70歳になった今、ノンフィクション作家として話題作を次々と世に出している。「トッカイ」とは、不良債権特別回収部のことだ。戦後、日本は高度経済成長を成し遂げ、巨額のジャパンマネーは世界を席巻していた。日本の失敗は、米国の資産買収に手を伸ばしたことだった。脅威に感じた米国は、85年にプラザ合意を日…
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渋沢家三代(佐野眞一著、文春新書)

 21年NHK大河ドラマ「青天を衝け」で描かれ、24年発行予定の新一万円札の顔となる渋沢栄一とその子供、孫たちを描いたのが、佐野眞一著「渋沢家三代」だ。平成10年に書かれたこの作品は、著者が「旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三」を書いたことにある。栄一の孫、敬三は渋沢家の3代目宗主として生まれ、戦時中は日本銀行総裁、終戦直後は大蔵大臣に…
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首里の馬(高山羽根子・第163回芥川賞受賞作)

高山羽根子作「首里の馬」には、儚いものがいくつも現れる。中でもタイトルの「首里の馬」は、突然現れる。「瞬間、小さい悲鳴を飲みこんだのは、カーテンを引き開けた目の前、未名子の家の小さな庭にいっぱいの、大きな一匹の生き物らしき毛の塊がうずくまっていたからだ」この“生き物らしき毛の塊”が何だかわからず、未名子はリモート会話の相手に尋ねる。…
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昭和16年夏の敗戦(猪瀬直樹著、中公文庫)

東京都知事にもなった猪瀬直樹が36歳の時に取材した「昭和16年夏の敗戦」が、2020年の夏に評判を呼んでいる。この本はあまり知られていなかった「内閣総力戦研究所」の誕生から廃止までを描いたものだ。日本の官僚制度の欠点は、縦割り制にある。各省庁間のコミュニケーションがなく、硬直化している。その弊害に穴を開けるために作られたのが「内…
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深い河(遠藤周作著、講談社)

 遠藤周作の「深い河、ディープ・リバー」は、1993年に出版された。クリスチャンの母親の元で育った遠藤は、終生キリスト教と関わり続けた。青年時代に患った結核も遠藤を苦しめた。ガンジス川を舞台とした「深い河」は、いくつかの視点から構成されている。癌で妻を亡くした磯辺は、妻がどこかで転生していると考えるようになり、インドへ向かう。戦…
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浅草エノケン一座の嵐(長坂秀佳著、講談社)

20年11月まで東京三宅坂の国立演芸場で、「演芸資料展・榎本健一没後50周年記念・エノケン」が開かれているが、エノケンを題材にしたミステリーがある。1989年(平成元年)、「浅草エノケン一座の嵐」で江戸川乱歩賞を受賞した長坂秀佳は、長らく人気ドラマ「特捜最前線」の脚本家として知られていたが、番組の打ち切りによって、苦境に立たされた。…
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マネー敗戦(吉川元忠著、文春新書)

 20年6月、日本政府は新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済対策として第2次補正予算を成立させた。第1次補正予算と合わせると、赤字国債発行額は57.5兆円にのぼる。現在、日銀の国債保有率は、46%。19年度末での日本の借金残高は、1114兆円。これに対して、日本の家計は1900兆円の金融資産を有している。日本の財政状況は、ますます歪…
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見返り美人を消せ(石井竜生、井部まなみ著・角川書店)

 マンションの下を歩いていた男の足元に落ちたのは、切手マニアなら誰でも知っている「見返り美人」。思わず拾おうとした男の頭に落ちてきたのは、植木鉢。男は殺されたのか?何のために?この謎を築地署の刑事が追うのが、横溝正史受賞作「見返り美人を消せ」だ。作者の石井竜生、井部まなみは夫婦作家で、井部まなみは姉さん女房。表紙の裏には色鮮やかな切手の…
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虹の翼(吉村昭著、文春文庫)

 日本で初めて飛行機の原型を想いついた二宮忠八の波瀾万丈の物語が、作者らしい落ちついた筆致で描かれている。二宮忠八は、日本に飛行機がまったくなかった明治時代に空を飛ぶ夢を見続けた男だが、製薬会社の重役、経営者として大成功を収めた人物でもある。商売に邁進し、目覚しい出世を果たした人物だが、薬剤との関係を深めたのは学校教育ではなく、軍隊…
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幕府軍艦「回天」始末(吉村昭著、文春文庫)

 この作品は、旧幕府軍の海軍副総裁・榎本武揚が軍艦4隻と輸送船4隻を率いて箱館(函館)に向かい、新政府軍と戦った歴史的事実を基に描かれている。新政府軍は、榎本に対して、7隻からなる旧幕府軍の軍艦と輸送艦すべてを引き渡すように言うが、榎本はそれを拒んだ。旧幕府軍艦奉行の勝安房守(海舟)は、榎本を説得するが変心しなかった。榎本は勝に…
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洋船建造(吉村昭著、文春文庫「磔」所載)

 この作品は、嘉永7年(1854年)に下田へ着たロシア船ディアナ号に纏わる歴史的事実を基に描かれている。当時、ロシアはアメリカと同様に対日通商交渉を求めていた。ロシアのプチャーチン中将は、過去にも何度か訪日して交渉を求めていた。頭を痛めた幕府はついに、ロシアとの交渉を下田で行うことに決めた。交渉役は筒井肥前守と川路左衛門尉だった。こ…
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霧越邸殺人事件(綾辻行人著・90年新潮ミステリー倶楽部)   

京都大学教育学部大学院を出た著者が30歳で発表した本格ミステリーだ。同時期に発表された「新潮ミステリー倶楽部」には、逢坂剛「さまよえる脳髄」、佐々木譲「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」、東野圭吾「鳥人計画」、宮部みゆき「レベル7」といった作品が並んでいる。現在のように本格ミステリーが隆盛ではなかった時代、綾辻行人は本格ミステリー期…
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小箱(小川洋子著、朝日新聞出版)

主人公の女性(私)は元幼稚園に住んでいる。「何もかもが小振りにできている。扉や窓や階段はもちろん、靴箱、掛け時計、水道の蛇口、椅子と机、本棚、電気スタンドの笠などなど、あらゆるものが幼児に相応しいサイズになっている」その家には、ときおりバリトンさんがやってくる。とても小さな文字で書かれた恋人からの手紙を解読してやるのが、私の勤め…
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論点別・昭和史(井上寿一著、講談社・現代新書)

19年11月に書かれたこの新書の意図を学習院大学・学長の筆者は「あとがき」で記している。「昭和史を知りたければ、たとえば書店でこれらの本(近現代史専門書)を手にとり、あるいはインタネット経由で資料映像を試聴することで事足りる。屋上屋を架す必要はない。それなのになぜ本書を世に問うのか。不満があるからである。ないものねだりかもしれな…
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動く牙(吉村昭著、「磔」所収・文春文庫)

タイトルの「動く牙」は、幕末に起きた水戸浪士たちによる騒乱の後、彼らが京都へ向かう姿を象徴している。彼らは凶暴な牙なのだ。物語は、元治元年(1864年)末の越前大野から始まる。飛脚が大野藩へ届けた書状は、福井藩からのものだった。書状には「水戸浪士一行が信州から美濃へ入り、さらに山越えして」大野藩へ近づきつつあるというのだ。大野藩の重…
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コロリ(吉村昭著、「磔」所載、新潮文庫)

令和2年、中国の武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの病死者を出したが、吉村昭の短編小説「コロリ」は、明治10年に日本におけるコレラ感染拡大と闘った末に理不尽な誤解によって住民たちに殺害された一人の医師、沼野玄昌を描いたものだ。作品の冒頭に、沼野医師の生涯が簡潔に記されている。やや読みやすくすると、 「沼野玄昌 天…
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三色旗(吉村昭著、「磔」所収・文春文庫)

長崎を舞台にした歴史小説「三色旗」は、幕末に不法入港したイギリス軍艦「フェートン号」事件を描いたものだ。オランダ商館長のヘンデリッキ・ドウフが遊女と交わることで気を紛らせている。「出島は、一種の監獄にも等しい人口島であった。島にはオランダ商館長ドウフ以下館員のほか、火夫、大工、桶屋、バター製造工、黒人下僕など十数名がいるだけで、かれらは…
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磔(吉村昭、文春文庫)

歴史短編小説「磔」は、昭和44年に書かれた。戦史小説を書き続けていた吉村昭が初めて手掛けた歴史小説である。あとがきによると「長崎へ年に二、三度足をむけていた私は、長崎につたわる史書にふれている間に、歴史小説を書いてみたいと思うようになった。いわば、私が歴史小説を書くきっかけをあたえてくれたのは、長崎という土地であり、その第一作が…
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にっぽん怪虫記・ネジレバネ(小松貴、新潮社「波」20年1月号)

新潮社のPR誌「波」に新たな連載が始まった。「にっぽん怪虫記」の著者は、国立科学博物館勤務の昆虫学者だ。「現在は毎日ほとんど好き勝手に、そこらで虫の研究をして過ごしている。肩書きとしては国立科学博物館という所に属する協力研究員という立場だが、これは無給ポストであるため、生活は妻に頼りきっている。名実ともに完全なヒモだが、妻は私の良き…
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血族の王(岩瀬達哉著、新潮文庫)

「松下幸之助とナショナルの世紀」が丹念に描かれている。裏表紙には「米相場で破産、没落した家名を再興すべく、松下幸之助は九歳で大阪へ丁稚奉公に出た」とある。11歳で一家の大黒柱になった運命に対して、幸之助は懸命に闘った。「事業拡大への飽くなき執念は、妻と始めた家内工業を従業員38万人の一大家電王国へと成長させた」のだ。昭和に活躍した評論家…
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CIAスパイ養成官~キヨ・ヤマダの対日工作(山田敏弘著、新潮社)

 2010年に米国でひっそりと亡くなった88歳の日本女性には隠された顔があった。その女性、山田清(きよ)は、1968年から2000年まで、CIA(米国中央情報局)の日本語インストラクターだった。驚くのは、彼女が働き出したのは46歳からで、CIAを去ったのが77歳だったということだ。CIAには定年がなく、必要とされる人材なら高齢まで働ける…
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独ソ戦・絶滅戦争の惨禍(大木毅著、岩波新書) 

1941年6月から1945年4月にわたって、ヒットラー率いるドイツ軍とスターリン率いるソ連軍とが壮大な戦争を繰り広げた。ソ連軍の被害だけを見ても、戦死、戦傷死、戦病死、行方不明、捕虜を合計すると、1128万人に達している。神奈川県の人口よりも200万人近く多いのだ。膨大な数である。戦前の日本軍が失った兵士の数は300万に近いが、その3倍…
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