女王陛下のお気に入り

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18世紀初頭の英国の宮殿を舞台とした女の闘いを、ヨルゴス・ランティモス監督が見事なドラマに仕立てている。美術、撮影も素晴らしい。見所は、アン女王(オリヴィア・コールマン)を巡る陰謀と駆け引きを演じるサラ(レイチェル・ワイズ)とアビゲイル(エマ・ストーン)の火花を散らす熱演だろう。名家の出身ながら、自邸に火を放って追放された貴族を父に持つ落剥の娘、アビゲイル。アン女王の幼馴染で権力を握る側近のサラ。サラを頼ってなんとか宮殿の女中になったアビゲイルが、執念の出世を遂げるまでが激しく描かれている。二人の中心にいるアン女王も悲劇の女性だ。自室に飼っている十数匹の兎にはそれぞれ名前がついているが、アン女王は過去に同じ数だけの妊娠をして、流産、死産、病死の為にすべての子供が亡くなっていたのだ。この作品のラストも強烈だ。自分を引き立ててくれたサラを蹴落として、貴族の妻として、女王の側近に成りあがったアビゲイルに足を揉ませながら、女王はアビゲイルの髪を掴む。女王はアビゲイルの陰謀で、最愛の側近だったサラを追放したことを知っているのだ。その断腸の思いをこの場面に込めながら、映像にはたくさんの兎が重なる。女王は英国最大の権力者ゆえに数多くの人々から擦り寄られて、甘言に騙され、裏切られて、彼らを切り捨ててきたのだ。その孤独は、作品の随所で鋭利に描かれている。窓から飛び降りようとする女王。サラやアビゲイルと愛し合う女王。過食症で、食べては吐く。通風の激痛で歩けず、車椅子で暮らしている。荘重な部屋に、女王がぽつりと暮らしているのだ。誰も信じられず、誰もが女王の孤独につけ込もうとしている。醜い容貌の女王。女王の権力を利用して英国を支配しようとするサラ。サラを毒殺しても成りあがろうとするアビゲイル。暗く壮大な宮殿の中で密かに繰り広げられる3人の女たちの見応えあるドラマになっている。

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